Story No.01
一枚を選ぶまで
帯合わせ / 小樽 京都きもの館
着物を選ぶ時間を、私たちは急がせません。
お客様がいらしてまず伺うのは、サイズでも予算でもなく、今日どこへ行かれるかです。
小樽運河まで歩くのか、堺町通りでお買い物をされるのか、それとも写真を撮ることが目的なのか。行き先が決まると、選ぶべき一枚はかなり絞られます。石造りの倉庫を背にするなら明るい色が映えますし、雪の日なら濃い色のほうが輪郭が立ちます。
次に、その方の肌の色と髪の色を見ます。同じ赤でも、朱に寄った赤が似合う方と、青みのある赤が似合う方がいる。ここを外すと、どれだけ良い着物でも顔が沈んで見えます。
着物が決まったら、帯を合わせます。
着物は面積が大きいぶん、遠目の印象を決めます。その人らしさが出るのは、帯のほうです。同じ小紋でも、帯を替えれば落ち着きも華やぎも出せます。
最後に帯揚げと帯締めを選びます。面積にすれば全体の数パーセントですが、この二つで全体が締まるか散るかが決まります。
カジュアルでも、振袖でも、選び方は変えません。どのプランでも、同じように伺って、同じように合わせます。
一枚を選び終えるまで、だいたい10分。
急いで済ませることもできますが、その10分が、その日一日の写真すべてに残ります。
Story No.02
三時間、歩いても崩れない
三本木急坂 / 小樽
着物は、歩けば動きます。座れば乱れます。それを見越して着せるかどうかで、夕方の姿が変わります。
小樽を歩けば、坂があります。運河沿いを歩き、店に入り、椅子に座り、また立ち上がる。3時間のあいだに、着物には相当な負荷がかかります。
崩れない着付けの要点は、着る前にあります。
着物は、体の凹凸をなくしてから着るものです。腰のくびれ、胸元、肩の傾き。ここを整えて、体を筒に近づける。この工程を省くと、どれだけ丁寧に着せても、歩いているうちに布が動きます。
整え方はお一人ずつ違います。同じ身長でも、体型が違えば手の入れ方が変わる。既製の補正具は使いません。その方の体を見ながら、一人ずつ合わせています。
紐の位置も、座る前提で決めます。
腰紐を高く締めれば着姿は綺麗に見えますが、座ったときに苦しくなる。低すぎれば裾が落ちてくる。食事をされるのか、ずっと歩かれるのか。伺った予定に合わせて、締める位置を変えています。
帯は、その場で結びます。
結び上げてある帯をお背中に留めれば、支度は早く終わります。それでも一本ずつ結ぶのは、体の厚みや生地によって、締める力も結ぶ高さも変わるからです。手は掛かりますが、歩いても形が落ちません。
一枚ずつ手を掛けるぶん、着付けには20分いただきます。
その20分は、残りの3時間のためのものです。
Story No.03
礼装を扱うということ
礼装の一枚 / 小樽 京都きもの館
うちには、打掛があります。黒留袖も、金彩の振袖もあります。
観光向けの着物レンタルで、これらを置いている店はあまりありません。管理に手間がかかり、扱いに知識が要り、そして貸し出す機会が限られるからです。
それでも置いているのは、うちがきものの店だからです。
はたちの集いの振袖を合わせ、卒業式の袴を用意し、婚礼の打掛をお貸しする。人生の節目に立ち会う仕事を続けてきました。観光でお越しになる方にお貸ししているのは、その簞笥の中の一枚です。
かしこまらずにお越しください。気軽に着ていただくためのお店です。ただ、選んでいただける幅が、少しだけ広いというだけのことです。
お気に召した一枚は、そのままお引き取りいただくこともできます。借りて袖を通し、色の映りや身丈の具合を確かめたうえで、手元に置く。そういうお求め方をされる方もいらっしゃいます。
この違いは、選ぶときに出ます。
着物には格があります。どの場に何を着ていいか、着てはいけないか。訪問着と付け下げの違い、紋の数が意味すること、既婚と未婚で変わること。
観光で街を歩くだけなら、格を気にする必要はほとんどありません。けれど、「これは結婚式に着られますか」「親族として出るのですが」と聞かれたときに答えられるかどうかは、店の性格を分けます。
その問いに、お答えできます。
きもの店が、きもの体験をおおくりしています。